190川は流れる ヌタクカムシュペの峯から 深い谷まをこえて 青くすみ ひろびろと大空をうつし また 暗い密林をくぐり いくつもの支流をかかえ 水芭蕉の群落や 小鳥の巣立つ草原をよこぎり 曲がり 曲がり 清冽な水のひびきは 白砂かがやく丘をこえ はまなすの花咲く 石狩の浜にそそぐ川は流れる 満月こうこうと波にうかび 丸木舟はくだる たくましき若者 黒髪の乙女とともに ささやきは 愛のしぶき 雁がね 首をそろえ 白鳥は 翼音高く風をきり いく組も いく組も 川や 湖に 翼を休める密林は密林につづき 老木も若木も 地をうづめ 空をおうて暗く 樹ぎの息吹は 靄となり霧となり 草原もはてしなくつづく 幾春別川 底ふかく 沢のごとく地をえぐり 石狩川にそそぐ移民たちは 初めて鋸を使い 斧をふるい 鎌をとり 鍬をふりあげた 経験したことのない 苦しみのうちに 間もなく どん慾な雪の魔手につつまれ 炉火を燃やしつつ 不安と 郷愁の夢の中で 長い冬をすごした遠い春が 野から 山から ぬくもり こぶしは花をつけ えぞ山ざくら 山をそめ 昇る陽の光に 若葉はかおり まことに潑剌たる天地の春を迎えた 人びと初めて生きる喜びを感じた こここそが われらに与えられた約束の土地だ 彼等はふるさとに向って合掌した 手がふるえる 脚がふるえる 神代以来の大地に 初めて 種子を播いた 萠えよ 萠えよ みのれ みのれ● 交響詩岩見沢 の歌詞序章 コタン第一章 村の誕生
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